大学院の履修科目にフラクタル心理学が採り入れられました!

ビジネスでも家庭運営でも役立つフラクタル心理学の世界観を学生たちに見せたくて

関西学院大学の教授として経営学を主体に幅広い分野で学生を指導し、税理士・中小企業診断士事務所の代表としても活躍されている加藤雄士先生。3年前より、人材開発論の講義にフラクタル心理学を採り入れはじめ、今年は正式な履修科目として、一色真宇先生も登壇することになりました。講義期間中の加藤先生に、人材開発論についてお話をうかがいました。

関西学院大学大学院 経営戦略研究科教授・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士事務所所長  加藤雄士先生

部下や従業員を変える処方箋に限界を感じて

――人材開発論の講義にフラクタル心理学を採り入れられた理由をお聞かせください。

人材開発論の講義は今年で9年目になります。受講するのは会計士、経営コンサルタントを目指す学生や、部下の育成に悩むビジネスパーソンで、相手を変える何らかのテクニックを得たいという期待があって講義にきていると思います。学生だけでなく、私が税務や経営の指導をしている企業の社長や役員も同じで、最終的に相談されるのは、部下や従業員をどうにかしたいという悩みです。この「人を変えたい」という悩みに対する処方箋には、正直言って限界を感じていました。

4年前の人材開発論の講義で心理に関わるかなりディープな内容を扱ったときのことです。上場企業に勤める優秀な学生が講義中に、仕事のミスを叱る先輩への怒りをあらわにし、父親の悪口を言い、彼氏にふられたと大騒ぎしたことがありました。彼女は、講義の終わりに「すべては誰かのせい、何かのせいと思っていたが、すべては何のせいでもないとわかった」と、自己分析したレポートを書いてくれました。

その頃、すでに私はフラクタル心理学の勉強をしていたので、心の中では「すべては何のせいでもなくて、すべては自分のせいという世界があるんだよ」と喉元まで出かかりましたが、それを言ってしまうと、せっかくの彼女の気づきを潰してしまうことになります。彼女が自分で発見したことなので、そのまま聞き流しました。

そのときに、「すべては私のせいだ」という世界に学生たちを誘いたい、「私たちは意味づけの世界で生きていて、どんな意味づけでもできる」ことを学生たちに見せてあげたいと思ったのです。フラクタル心理学は、人を直接変えようとせず、こちら側の深層意識を修正することで相手側が自動的に変わるという世界です。3年前から講義に採り入れ始めて、学生の良い感触を感じていました。今年(2019年)は、正式に履修科目として、一色先生にテキストを書き下ろしていただき、2ヵ月間で7回の講義を行う予定です。一色先生には3回登壇いただくことになっています。

自己開発をすると人材開発になる

――人材開発論では、人の育成としてまず自分の育成、自己開発がテーマになるということですが。

今回のテキストではフラクタル心理学と人材開発との関係性が説かれていますが、人を成長させたければ、まず自分が成長することです。それには、「(自分の心の中の)親の価値を上げることがすなわち自分の価値を上げること」になります。つまり人材開発をしようと思ったら自分の親を上げる(親の素晴らしさを認識する)のが一番早いことになります。

講義では、フラクタル心理学のインナーチャイルド療法によって子ども時代の自分を客観的に見て、子どもの頃の自分の勘違いに気づき、親との関係性を見直すワークをしています。

お父さん、お母さんを誤解してきた学生たちが、親にありがたいと思えるようになり、直接、「ごめんなさい」と謝ることができて、それで周辺の家族関係も変わったというケースが実際に出ています。

――どのような変化があったのかお聞かせいただけますか。

有能なビジネスパーソンですが、講義を聴くようになってから、今まで寄りつかなかった娘が、話しかけてくるようになったといいます。       

親元を離れて暮らす大学院生は、100キロ離れた実家の母親に講義の内容を電話で話したところ、母親は人生に前向きになり、受験に失敗して引きこもりがちだった弟が母の手伝いをするようになり、父親は出張先からよく実家に連絡してくるように変ったといいます。

昨年、フラクタル心理学を採り入れた人材開発論の講義を受けた男子学生は、自分の間違いに気づいて父親に土下座したら、父親は「お前は変ったな」と言ってくれたといいます。彼は父親から資格を取れとガミガミ言われて、父親の勝手な欲望と決めつけてきましたが、今年、人材開発論を再び学んで、親の方が経験は多いのだから、なんらかの理由があって言ってくれていると思えて、本気で資格試験の勉強を始めたと言っていました。

また、高い技術力を持つ会社の専務ですが、社長である父親との折り合いが悪く、業績は良いのに、従業員から見たら安心できない会社になっていました。彼自身が下請け企業ゆえの貧乏暮らしを見てきて、親のために会社を大きくしたいと努力して会社を成長させてきたのに、それを認めてくれない両親を恨んできたと言います。それがこの講義で、若い受講生たちの自己開発に真摯に取り組む姿に勇気をもらい、自分の「パンドラの箱」を開け、この3年間の自分を振り返り、自己中心的で言葉足らず、父親に不満を持ち、喧嘩ばかりしていた自分を反省したと言います。

さらに、同世代の受講生の言葉からも考えさせられ、「私が親のためにしてきたと思ってきたが、それは逆で、親が私に好きにさせてくれていたんだ」と気づき、両親への感謝と父親への尊敬の気持が湧いてきたと言っています。このように学友からも刺激を受けて人材開発が進んでいます。             

いろいろ出ていますが、親子関係の結び直しはすごく素敵なことで、とても美しい光景だと思います。こういった報告を聞くのが、講義の一番の報酬ですね。

経営不振や経営者の苦悩にも有効か

――テキストにはビジネスの場面も多く入っているのですね。

昨日のケーススタディでは、「商売をやっているがなかなか高いものが売れない。なぜかと言うと『どうせ高いものは売れない』という思い込みがあるからで、経営者自身が財布のひもが固く、そこを修正しないと高いものは売れない」というストーリーでした。  

こういったアプローチは売上げを上げるためのマーケティングや経営戦略による経営手法といったものを飛び越えています。経営者の心理的ブロックを取り除くことで売上げを増やせるなら、それはすごい経営コンサルティングになりますよね。

それからテキストにはこんなケーススタディもあります。「仕事熱心なビジネスマパーソンが頑張りすぎて、家族との仲が悪くなり、やがて家族が病気になって、仕事を中断せざるを得なくなる」という、成功者のダークサイドの話です。フラクタル心理学では心理を深くえぐって、その原因と解決法を提示しています。

現実にもこういったことはよくある話で、どんなに業績が良い会社の役員でも、実はダークサイドとして親との不和や家庭でひずみが出ていることが多いのです。逆にできる人ほどそうなっている。どれだけ知識を身につけて資格を取っても、どれだけテクニックを身につけて会社の業績を上げても、家族関係に亀裂が生じたままだと、どこかでブレーキがかかるし、どこかで幸せ感がないし、頭の片隅で家庭を犠牲にしているという罪悪感が残ります。

ビジネスパーソンとしての主観的な屁理屈かもしれないけれど、私の本音としても、「上に行こうと思ったら、死ぬほど働かなければいけないし、一定量の努力がないと上がれない。だから、土日も休みたいと思ったら上に行けないのだから、家族が犠牲になるのもやむを得ない」というのがありました。

――フラクタル心理学では父親が頑張って働いて稼いできてくれたから、子どもたちは大きくなれたんだよと説いていますね。

そこの部分はありがたいんですよ。一つ安心させてくれるんですよ。フラクタル心理学では「稼ぐことは愛」と説いていますからね。「そうか、自分は子どもの話を聞いてこなかったし、PTAも運動会も行かなかったけれど、働いてお金を与えてきたのは愛だったんだ」と思えるのがすごく救いなんです。

それから、家庭のなかで父親がトップとするヒエラルキーの話も救いですね。なかなかアレを守ってくれる女性陣が少ないんだけど(笑)。

大学の講義として実験していきたい

――講義の着地点はどのようなところでしょうか? 

今は学びと実践に集中させていますが、講座の最後には、どのような経緯で人は開発されるか、どういったことで開発が阻害されるか、開発されるに至ってはどのような分岐点があるのかなど、自分の事例を分析するメタ学習をしてレポートを提出してもらいます。

――かなり先進的な講義だと思いますが、興味を持たれたことを教えながら消化して、また探求するというお考えでしょうか?

そうなんですよ。おもしろくて効果があるものですが、学会ではまだ定着していないというものなら、それこそ大学で実験すべきことなのではないか?という意気込みで、講義に持ちこんでいます。実際に大学院生にも納得感があって、その家族にも影響が出ています。フラクタル心理学は大学の講義に持ちこんでも効果があるという、現実的な事例として役に立てたのならとても嬉しいですね。

――講義期間中ということもあり先生の熱量が大変伝わってきました。本日はお忙しいところありがとうございました。

(インタビューは2019年7月7日時点のものです。7回の講義は2019年7月27日に無事全部終了しました)